2025年は「門松」で幸福に!?
神様を「家」にお招きする
日本文化とは
華道家インタビュー
実家への帰省や新年会の開催など、年始の過ごし方が従来通りへと戻りつつある2025年。大切な人と逢うチャンスが増えるからこそ、新年のさらなる飛躍を願って門松や花を飾ってみませんか?
門松は平安時代から日本にある文化だと言われていますが、なぜ新年に松を飾ると良いのか?どんな想いを門松に込めるべきなのでしょうか?改めて門松について考えてみると、様々な疑問を持つ方もいらっしゃるかと思います。
そこで今回は、知恩院の僧侶でありながら、華道家としてもご活躍されている大津憲優さんに、「今こそ門松を飾るべき理由」についてお聞きしました。
今回お話してくださった
僧侶 兼 華道家さん
大津憲優さん
都未生流家元内。毎年流展での作品発表の他、多くの寺院で献花、制作を担当。浄土宗修練道場、同宗派青年会などで華道講師を務める。宗修練道場・華道講師。知恩院の所属寺院に住職として従事もしている。
目次
門松で(結果的に)私たちもご利益を得られる!?
――いきなり不躾な質問なのですが、「縁起物」と呼ばれる門松を飾ると、運気は上がるのでしょうか(笑)?
運気が上がると断言はできないのですが(笑)お正月というのは、ものすごく簡単にいえば「神さまをおもてなしする祭り」なんです。と言っても、神社や地域の祭りと違って、自分のお家に神さまをお迎えする「家のお祭り」です。
そのときにお迎えする神様を「年神さま」と呼ぶのですが、神さまをお招きするには、神様が宿る媒体となる「依り代」が必要です。それが門松にあたるんです。
神さまに失礼のないようにたくさんの準備をしてお迎えし、私たちが無事に新しい年をむかえられた感謝と五穀豊穣や平安を祈る。ですので、門松を飾って神様をお迎えした結果、私たちもご利益を得られると考えるのは良いでしょう。
――ちなみに「年神さま」とは、どんな神様なんですか?
年神さまの本来の姿は「ご先祖さま」なんです。
日本では昔から、人は亡くなって33年など一定の期間が過ぎると先祖の仲間入りをすると考えられてきました。先祖に仲間入りしたその人は「ご先祖さま」とよばれ、日本で暮らす人々にとって「神さま」の代表的な存在となります。
ご先祖さまは、普段は生まれ住んだ土地の山上から子孫の暮らしを見守っています。しかし、季節の節目や大切な行事の際には、人々は自らご先祖さまである年神さまを山へとお迎えにあがります。例えば春になると、米作りが上手くいくようにとお迎えし、秋の収穫が終わると感謝の心を伝え、また山へとお送りします。
そして、お正月には一年の平和と五穀豊穣を願ってご先祖さまをお家にお招きし、おもてなしをするのです。
つまり、年神さまは「ご先祖さま」であり、私たちにとってすごく身近な神さまだと言えますね。
門松は神様に渡す「案内地図」
――現代は門松を飾らない人も多いように思いますが、現代人にとって門松を飾る意味は何だと思われますか?
今風にいうと、門松を飾ることは「年神さまをお迎えするときの目印を用意する」ということなのです。「私の家はここですよ」「迷わずにいらしてくださいね」という想いがこの行為には含まれています。
例えばみなさんが友達や恋人、自分にとってとても大切な人を初めてお家に招くとき、どうしますか?
――迷わずに来られるように住所やルートを伝えると思います。余裕があれば案内地図を書くかも…?
そうですよね。最寄り駅を教えて、駅から家までの道中の道順を書いたりして丁寧に教えてあげますよね。大切な人ほど、道に迷ったり道中で不安になったりしないように、道中の目印になるものを詳細に記したり自分の家の特徴なんかも添えて。
ようするに門松というのは、大切な人をお家にお招きするときに行う一連の行為と同じこと。相手に対して「道に迷わないように」という気遣いであったり、「道中で不安にならないように」という労りの気持ちであったり。
そんな目に見えない想いを「門松」に込めて飾ることで、現代の方も、自分以外の誰かへの思いやりがもっと増えるんじゃないかなと思います。
もしお子さまがいらっしゃれば、門松の飾る意味の話なんかをしながら一緒に飾ると、きっと気遣いや労りができる大人に成長してくれるんじゃないかと思います。
門松風アレンジメントもOK
――本格的な門松ではなく、「門松風のアレンジメント」でも良いでしょうか?
大丈夫です。そもそも門松の様式は地域によって異なりますし、時代によっても大きく変わります。「神様をしっかりとお迎えするんだ」とわかってさえいれば、無理にかたちに固執する必要はないと思います。
――飾る場所も、門前に限らず住宅事情にあわせれば良いということでしょうか?
そうですね。最近は門のないお家も多いですしね。マンションの場合は玄関前に飾るというのも難しいでしょうし。現状に応じて飾りやすいところ、例えば玄関の下駄箱の上・リビング入口付近でも良いかと思います。門松の意味合いや中身は変えずに外見は変えて、ご自身のやりやすいように行うのが一番です。左右に飾ることにこだわらなくても大丈夫ですよ。
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2025年のお正月はみんなで集まり、「共通のこと」をしてみては?
――自粛ムードも薄れつつある2025年ならではの、お正月の過ごし方を教えてください。
2025年はいよいよ従来のお正月が迎えられそうですね!
幼い頃、祖父母や年上の親戚らと一緒に遊ぶということは、私にとってお正月の大きな楽しみの一つでした。自分も大人たちの仲間入りをしているという満足感や、みんなで同じことをしているという連帯感が、何か子供心に「特別なことをしている」という気持ちになってとても楽しかったのを覚えています。
2025年は従来のように、集まったみんなで「お正月らしい共通のこと」をして過ごすのはいかがでしょうか?例えば、家族や親類がそれぞれ花を持ち寄って、新年の飾り花を作るなんて楽しいと思います。
一人が1種類の花を人数分用意して、それぞれが持ち寄った花を一本ずつ取って生けます。5人で行えば5種類の花で作った5つの作品ができます。今はディスカウントショップにフラワーアレンジメント用の器が売られていますし、包装紙の種類も豊富なのでラッピングアイテムの準備も難しくありませんよね。
家族揃ってわいわいと、褒めたりアドバイスしたりしながら花を生けてみてください。きっとお正月の忘れられない思い出の一つになると思います。
――久々に親戚や友人と新年会をする人も多いと思いますが、ちょっとした手土産におすすめの花はありますか?
小さいアレンジメント花をいくつか準備して、バラエティーパックのように詰め合わせた花を「花合わせ」として主催者へお渡しするのはいかがでしょうか。
個別に分けられたアレンジメントであれば、食事のテーブルに添えたり、主催者がよければゲストの方と分けたりすることもできます。自宅に持ち帰ってリビングや寝室に飾ればお正月ならではのインテリアになりますので、きっと喜ばれるのではないでしょうか。
自分で花をアレンジして贈るのであれば、手のひらサイズに切った南天とグロリオーサを和紙で飾りつけたり、小さいカップ容器に松と赤いバラを組み合わせたりして、お正月らしいアレンジメントにするといいでしょう。2025年は巳年なので、ヘビがモチーフの飾りを使ったりするのも楽しいかもしれませんね。
――2025年、久々に年末に帰省できる人がお正月に心がけると良いことはありますか?
これまで帰省できなかった分も含めて、お正月行事を盛大に行ってみるのはおすすめです。門松やしめ飾りを飾ったり、お節を作ったりといったお正月を迎える準備を、家族みんなで盛大にやってみてください。
特に門松はその年の「年神さま」をお迎えするのにとても重要なものですから、家族みんなで一緒に準備するのもいいかもしれませんね。わが家ならではのお正月を迎えられて、きっと良い一年をお迎えすることできると思います。
――一方で、やはり今年も帰省できない人が心がけると良いことはありますか?
自宅と実家のお正月飾りをどこか一つ、全く同じようにしてみるのも良いですよ。 例えば「全く同じかたちの門松」を、それぞれのお家で飾ってみるなんていいかもしれませんね。
お正月は「家のお祭り」です。離れていても「同じお飾り」が家にあれば、家族一緒に「年神さまをお迎えしている」という想いが、より分かち合えるでしょう。
――門松以外で、お揃いにできるアイテムはありますか?
花もおすすめですよ。それぞれの住まいで全く同じお花を用意して、お正月の花を自分たちで飾ってみてください。
同じ種類の花を使っても、飾る人によって随分とかたちが変わるものです。花の出来上がりをオンラインで見せ合って比べてみるのも、きっと楽しい大切な時間になると思います。
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平安時代から続く日本文化の奥深さ
――ところで門松を飾る風習はいつからあったのでしょうか?
お正月に門松を飾る習わしは、平安時代からあったと考えられています。ただ、当時は今みたいに華美なものではなく、家の門口にただ松を立てるといったものでした。
――門松は、いけばなの世界でも古くから重要視されているとお伺いしたのですが、なぜなのでしょうか?
いけばなの起源といわれるものはいくつかあるのですが、そのなかでも「神の依代として花木を祀る風習から、いけばなが発展した」、という説が重要視されているのに関係があります。
私たちの祖先は、あらゆる自然に神様が宿ると信じていました。花や樹木・山や川等は神様が宿る「依代」とされ、信仰の対象となり崇められました。いわゆる「アニミズム」ですね。
やがて住居が整い文化が発達していくと、自分の家にも神様をお祀りしたいと考えるようになりました。とはいえ、山や川は家には持ち帰られない。そこで、花や樹木を依代とするようになったと言われています。
――その中でも、なぜ松が門松として飾られるようになったのでしょうか?
季節の変化に伴って命の移ろいをずっと見ていた私たちの祖先は、常に緑色を絶やさない常緑樹を特別な植物だと感じるようになったのだと思います。
中でも、長寿で葉を落とさずに大きく成長する松は、神様の「依代」として特に相応しいと考え、家に持ち帰って立てて祀られるようになりました。そうして新年の節目に飾られるようになったのが門松なのです。
背筋を伸ばして門松を立て、一年の感謝と平安を祈る
――最後に、良い1年を迎えるためには、どんな心持ちで門松を飾ればよいでしょうか?
私も華道家として日々花を生けていますが、忙しい日が何か月も重なると「これは何のために、誰のために生けているのか」という想いがだんだん薄れていくような気がします。「ただ、いけばなの会があるから生ける・講義があるから生ける」という風に。でもそれは花の命に対して大変失礼ですし、やってはいけないことです。
そうすると、心の中で「これは何のために生けているのか、誰かのためなのか、あるいは自分のためなのか」としっかりと感じられるようにリセットする必要がでてきます。お正月の花を生けることは、まさにそれにあたります。相手が神様ですし、失礼があってはいけませんから。
ぴしっと背筋を伸ばして、門松を立てる。その松に年神さまをお迎えして、一年の感謝と、五穀豊穣・平安を祈るわけです。その一連の行為は、おざなりになりかけていた日常を改めなおしてくれます。
良い一年というのは、良い一日の積み重ねです。
花は、毎日・毎日再生を繰り返し、しっかりと命を紡ぎ、やがて花を咲かせ、実を実らせます。実りある一年を迎えるためには一日一日をしっかりと生きることが大事なのだと。
そういう当たり前のことをあえて一年の最初の日に思い起こす。これがとても大切だと考えています。
まとめ
「今年も無事に終わってよかったな」
「来年も幸せな一年にしたいな」
そんなふうに心の中で振り返る機会が増えてきた今日このごろ。
その思いを目に見える形に表すことで、より思いは深まり、願いは実現されやすくなるものです。門松はそのための方法のひとつ。今年は門松に旧年の感謝と新年への希望を込めてみてはいかがでしょうか。
今年は、
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