追いつめられた地球へ、
あなたが贈る“優しさ”は
何ですか?
〜 CO2排出量削減 /
SDGsを考える 〜
※画像はイメージです
「個人のエコ活動は地球に“大きく”影響しないから、まだ真剣に取り組まないでも大丈夫だろう」
昨今、“SDGs”という言葉が世間に普及するとともに、各所で地球環境保全・CO2排出量削減への取り組みが行われています。しかしながら冒頭のように、心のどこかで「自分が急務で、責任をもって取り組む課題ではない」と考えている方もいるでしょう。
そこで今回はそんな方に
- 地球環境が今どれだけピンチなのか
- 個人のCO2排出量削減がどれだけ重要なのか
をご紹介します。現状を正しく理解すると、私たち一人ひとりが、もはや悠長に構えていられないひっ迫した現実が見えてきます。
本記事では、CO2排出量削減の重要性や私たち一人ひとりができることについて、工学博士の西尾匡弘先生に教えていただいた内容をご紹介します。
今回、教えてくれた先生
産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域ゼロエミッション研究戦略部 イノベーションコーディネーター。1990年4月に通商産業省工業技術院機械技術研究所へ入所。CCSやエネルギーマネジメントシステムなどを中心に研究に従事する傍ら、2004年3月から2007年5月まで、経済産業省環境政策課地球環境対策室に出向し、IPCC第四次評価報告書の作成支援およびCCSの技術開発関係を担当。2013年4月から2016年7月までは内閣府 総合科学技術・イノベーション会議事務局に出向し、エネルギー・環境分野を担当した後、現職をご担当されている。
※以下内容は、西尾先生のインタビューをもとに、編集チームが執筆したコンテンツです
日本は、目標達成の筋道が立っていない
CO2排出量削減は、世界と交わした大切な約束
“CO2排出量削減”の課題は、1997年の京都議定書から取りあげられていました。そして2015年のパリ協定では、地球の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃〜2℃未満に抑えることを目標とし、参加国は世界全体でその実現に取り組むことに合意しました。
- 京都議定書とは
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1997年、世界各国の政府代表者が京都に集まり、第3回・国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP3)を開催しました。この会議で採択されたのが、“京都議定書”という国際条約です。この取り決めにより、EUは8%・アメリカ合衆国は7%・日本は6%の温室効果ガスの削減を約束しました(2008年から2010年までの5年間の平均排出量を、基準年である1990年比で)。
日本のCO2排出量削減目標は、2050年時点で“実質ゼロ”
2020年10月、菅義偉氏(第99代内閣総理大臣、2020年~2021年)は、
「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年にカーボンニュートラル(※1)、脱炭素社会の実現を目指す」
と宣言。さらに2021年4月には、2050年カーボンニュートラル実現のための道筋として、
「2030年までのCO2排出量を2013年度比で46%削減する」
という目標が発表されました。
※1 カーボンニュートラルについては後ほど詳しく解説します
日本のCO2排出量削減の現状は、目標値に対して全然間に合っていない
では、直近の日本の温室効果ガスの総排出量はどのくらいなのでしょうか? 環境省によると、2019年の温室効果ガス総排出量は12億1,200万トン(二酸化炭素(CO2)換算)。この数値は2013年度対比14.0%減です(※2)。
つまり、減ってはいるのです。しかし、先の「2030年までに2013年の46%に抑える」「2050年にカーボンニュートラルを実現する」という目標に対しては、これでは「全然間に合わない」というのが実情です。
カーボンニュートラルとは
今後、CO2排出量を減らすためのキーとなるのが、前述した“カーボンニュートラル”という概念です。
- カーボンニュートラルとは
-
排出されたCO2を吸収・除去することで、排出量を実質ゼロにするという考え方であり、概念。
「CO2を全く出さない」というのは、現実的には不可能な話なので、カーボンニュートラルでは「吸収・除去」という視点も大切にしています。例えば植物はCO2を吸収してくれる、貴重な資源です。
しかし、どれだけ再生可能エネルギーを導入したりしてCO2排出量を削減しても、日本は森林を増やすだけで収支をゼロにはできません。そこで現在、削減しきれなかった排出量に相当するだけの“吸収源”を用意してカーボンニュートラルを実現しようとする研究が各所で進められています。
CO2排出量削減に個人が取り組むべき理由
現在、CO2排出量の約1/3は産業、約1/3は運輸が占めています。そして残りの約1/3が、個人が生活の中で排出している分です。もしも、最終的にCO2排出量を半分に減らすというのであれば、産業や運輸関連の大きな企業が頑張りさえすればどうにかなるかもしれません。
しかし、2050年にカーボンニュートラルの実現を目指すとなると、もはや大企業のCO2排出量削減だけでは足りません。個人も意識的に取り組まなければ目標を達成できない、つまり地球を守れない段階にきてしまっているのです。
本質的エコを“ライフサイクル全体”で考える
個人が地球環境負荷を減らそうと考えるとき、”エコ”と考えられている商品・サービスを選ぶ方も多いでしょう。そのようなアイテムを選ぶ際に、これからの時代で考えていただきたいのが、下記図のような「製品のライフサイクル全体で発生する環境負荷」です。
- 【備考】ライフサイクルアセスメント(LCA)とは
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LCAとは、製品・サービスのライフサイクル全体で発生する環境負荷を、定量的に評価する手法のことです。環境負荷を”消費シーン”などの局所だけで考えるのではなく、”ライフサイクル全体“で評価します。
ライフサイクル全体を考慮すると、より環境に配慮した製品・サービスを検討・選択できるようになります。具体的な例として、「エコバッグ」をテーマにご説明します。
レジ袋は使わずにエコバッグを使うのは、本当にエコかどうか【ライフサイクル全体から考察】
エコバッグはその名の通り「エコ」という印象があるかと思います。しかし、エコバッグを使って”さえ”いればエコかというと、そうとも言い切れません。ライフサイクル全体で考えたときに、エコではないケースを紹介します。
- ①エコバッグを製造する際に、大きな環境負荷がかかっている(製造)
- ②製造国が遠い国のため、輸送時にCO2をたくさん排出している(流通)
- ③これまではゴミ捨てにレジ袋を再利用していた人が、ゴミ捨て用のビニール袋を新たに購入している(使用)
繰り返しになりますが、重要なのはライフサイクル全体を考えて商品を選び、使うこと。最近では、地球環境に負荷の少ない素材を使用するだけではなく、環境負荷の少ない運送を取り入れたり、容器の廃棄体験まで設計されたアイテムなども登場しています。
製品そのものの魅力だけではなく、製造・運送・廃棄に及ぶ製品のライフサイクルの美しさを“物を選ぶ基準の一つ”にしてみると、これからの皆さんのライフスタイルや地球に、より良い変化が生じるかと思います。
具体的に意識すると良いポイント
- 環境問題に配慮がある製品・ブランドなのかチェックしてみる
- 生産過程や材料に着目してみる
- 製造国ができるだけ近い国や日本製のものを選ぶ
- 一つの製品をできるだけ長く使う
- 包装の少ない製品を選ぶ
確実に効果がある“使用量を減らす”
LCAの観点から、単純に「これが良い!」と言える例が多くないエコ活動ではありますが、実は確実に効果的な手段が一つあります。それは、“エネルギーや物の使用量を減らす”ことです。
- 例
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- シャワーの使用時間を短くする
- 給湯器の使用量を減らす
- 電気機器の主電源をこまめに切り、待機電力を節約する
- レジ袋を2回使う(2回使えば使用量が半分になる)※衛生面にご注意ください
CO2排出量の少ない移動手段を選ぶのも一つの選択
移動の際の交通手段にも、エコの観点を取り入れるのも良い選択です。移動手段によって、CO2の排出量はこんなにも異なるからです。
※旅客輸送において、各輸送機関から排出される二酸化炭素の排出量を輸送量(人キロ:輸送した人数に輸送した距離を乗じたもの)で割り、単位輸送量当たりの二酸化炭素の平均的な排出量を試算すると図のようになります。
参考:「国土交通省ホームページ運輸部門における二酸化炭素排出量」掲載の『「温室効果ガスインベントリオフィス:「日本の温室効果ガス排出データ」、国土交通省:「自動車輸送統計」、「航空輸送統計」、「鉄道輸送統計」より、国土交通省環境政策課が作成』した図表を参考に、本記事の編集チームが図表を作成
贈る人にも、地球にも。あなたから優しいギフトを
個人ができるCO2排出量削減方法として、エネルギーの使用量や輸送量・移動量を減らすのは確実な手法の一つです。その観点で考えると、贈答する商品やサービスの選び方に着目するのもおすすめです。
例えば私たち花キューピットは、お届け先近くの加盟店からお花をお届けするという配送方法を導入しています。遠距離輸送をせず、CO2の排出量を確実に減らすことに貢献しています。また、段ボール等の梱包材の使用を最小限に控える工夫をし、環境保護の観点も大切にしています。
贈られる人にも、そして、地球にも優しいギフトを。これからの時代の選択肢として、日常に取り入れていただきたいと願っています。
行動を変え、そして習慣へ
繰り返しにはなりますが、CO2排出量削減は、もはや企業だけでなく個人レベルでも意識的に向き合う必要があるフェーズに入っています。
「CO2排出量を減らすためにはこれをすればいい」と単純に言えないのが難しいところではありますが、個人ができることを正しく知り、日常生活の中でエコ活動を習慣化していくことが大事だと言えるでしょう。
この記事が、CO2排出量削減の取り組みへの関心を深め、みなさんが行動を変えるきっかけになれば嬉しく思います。
この記事は2021年8月30日に取材し、執筆されたものです。