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  3. 仏花はコミュニケーションツール。故人に愛を届ける実感を。【知恩院僧侶インタビュー】

仏花はコミュニケーション
ツール。
故人に愛を届ける実感を。

知恩院僧侶インタビュー

お墓参りや帰省が難しい、このご時世。
大好きだった・お世話になった“あの人”への想いを伝えきれず、胸に抱えている方もいらっしゃるかと思います。

そんなとき、あなたの気持ちを“お花(仏花)”に込めて、偲ぶ想いを形にしてみるのはいかがでしょうか。
仏花と聞くと少し古めかしく・小難しいイメージを持たれるかもしれませんが、実はそんなことはありません。
知恩院の僧侶でありながら、華道家としてもご活躍されている大津憲優さんは、仏花について以下のように語ります。

「最近は可愛いお花も出ていますし、ルールに囚われる必要性はありません。お花は、今はもう会えない・話せない大切な人に、自分の本当の想いを届ける不思議な力があります。この時代だからこそ、仏花を通したコミュニケーションを体験してほしいと思います。」

しかし、どうしてお花が故人へ想いを届けてくれるのでしょうか。
そもそもいつから人は、故人にお花を手向けるようになったのでしょうか。
今回は、そんな仏花にまつわるお話を、冒頭のセリフにも出てきた大津さんに教えていただきました。

今回お話してくださった
僧侶 兼 華道家さん

大津憲優さん

大津憲優さん

浄土宗修練道場・華道講師

西雲寺第二十一世住職

正念寺第三十八世兼務住職

知恩院の所属寺院に従事する傍ら、都未生流の華道講師としてもご活躍中

【奥深い歴史】 昔の人々は“蘇り”の願いをお花に込めた

――故人にお花を手向ける文化は、いつ頃からあるのでしょうか?

ほんまか嘘かはわからんのですけど、ネアンデルタール人のお骨を収める場所からお花が出てきたという話も聞いたりするので、大昔からお花を手向けて故人を埋葬する文化はあったのではないかと思います。

日本でいうと、日本書記に「亡くなったイザナミノミコト(※)を祀るために、人々は時節の花を手折り手向けた」というお話が載っています。神話の時代から、亡くなった方にお花を手向ける文化はあったと考えることもできますね。もちろん諸説はありますが。

※イザナミノミコトとは
日本神話の女神で、イザナギノミコトの妹であり妻。日本を形作る様々な神様を生んだといわれている

――そもそも昔の人は、どうして故人にお花を手向けようとしたのでしょうか?

昔の人は「お花(植物)は蘇りの力を持っている」と信じていたんですね。お花は何度も再生を繰り返します。雷があたって木が裂けても、しばらく経ったらまた新しい芽を息吹きます。そんな不思議な力を持ったお花を手向けることで、故人に蘇りの力を渡そうとしたのでしょう。

大切な人が亡くなったとき、誰しも「たとえ霊でも会いたい・夢の中でも会いたい」と願うものです。だからお花の力を借りて死者の心を慰め、「また、会えますように」という思いを込めて、お花を手向けていたのではないかと思います。

あと昔の人は、人間は死ぬときは邪悪な力によって肉体は滅んでいって、でも一方で精神や心は滅びずにこの世に存在していると考えていました。そのため、未だ存在する心を鎮めたり慰めたりするために、浄化の力をも持つお花を手向けるという意味もありました。

【世界の仏花】 お花による供養は、国境を超えた優しい文化

参考:マリーゴールドを飾る、華やかなメキシコの死者の祭り

――死者にお花を手向ける文化は世界中にあるとのことですが、どんなものがあるのでしょうか?

有名なのでは、映画にもなったメキシコの「死者の日」があります。「オフレンダ」という祭壇に、たくさんのマリーゴールドをお飾りして死者を迎えるお祭りです。日本のお盆の行事と非常に似ていますね。

また仏教の国は、死者を祀るときにだいたいお花を使います。例えばタイでは、花輪を飾って追悼の意を表します。日本と違うのは、各国の行事はお祭りのひとつなので歌も歌うし踊りもするし、音楽もあるし、とても陽気で派手だということですね。

日本も盆踊りがありますが、そんなに派手なものではなく、どちらかといえば厳かな行事です。私としては、もっと自由に綺麗な飾り付けをしてあげても良いんじゃないかな、と思います。

【仏花の価値】 お花は本当の想いを伝えるためのコミュニケーションツール

――僧侶、そして華道家の大津さんから見て、現代社会で仏花を手向けることには、どのような意味があると思いますか?

今はもう会えない、話せない大切な人に、自分の本当の想いをお花にのせて届けられるところに大きな意味があると思います。

そもそも昔から「お花を贈る行為」には、「自分の本当の気持ちを相手に伝える」という意味合いがありました。例えば平安時代は、自分の恋心を歌とお花に込めて贈ったりしていましたよね。つまり、お花は大切なコミュニケーションのツールだったわけです。

少し話はそれますが、「言霊」という考え方はご存じの方が多いかと思います。想いや願いを実際に言葉に出すことで、その言葉に不思議な力が宿り、想いや願いが叶うというものです。

それと同じように、本当の気持ちをお花に託すと、そのお花には不思議な力が宿ります。
そのお花の力を借りて、今はもう目にも見えないし話すこともできない故人に、遠くまで気持ちを伝えることができるのです。私はこれが、仏花の一番いいところだと思います。

――遺された方にとっては、自分の気持ちを整理する意味もありそうですね。最後に会えない経験をされた方にとっては特に……

そうですね、お花を贈ることで「たしかに自分の想いを伝えることができた」と、今生きている人たちは実感できるのではないでしょうか。

【仏教・華道における仏花】 仏花は、仏教にも華道にも存在しない言葉

――仏教や華道の世界では、「仏花」はどのようなお花と定義されているのでしょうか?

実は仏教や華道の世界では、「仏花」という言葉はそもそも使わないんです。
仏教では、仏様や亡くなった方にお花をお供えすることを、すべて「供花(くげ)」と呼びます。つまり供花という言葉の持つ意味はすごく広いんですよね。あまりに広義だから、供花という言葉はあんまり世間に浸透しなかったんかな……と思います。

そこで現代では、自分の大切な方にお供えするためのお花のことを、便宜上「仏花」と呼ぶようになったのではないかと推測しています。大切なのは気持ちで、呼び名は重要ではないですし、私はこの言葉の使い方で良いと思っています。

――亡くなった方にお供えするお花はすべて仏花と呼ぶのでしょうか?

はい、告別式・四十九日・それ以降の年季など、さまざまなタイミングでお花を供えますが、これらはすべて「仏花」と呼んでよいと思います。

【ルール】 仏花にルールはない、想いを込めて自由に飾って

――仏花はどこに飾るのが良いのでしょうか?

仏花は亡くなった方に対してお供えするものなので、一般的にはお仏壇やお仏前・お墓の前かと思います。でも、「そこしかダメですよ」ということは決してありません。

今はお墓やお仏壇が無いご家庭も多いかと思いますので、故人とご縁があった場所・思い入れのあった場所に置いてあげるのも良いかと思いますよ。例えば、亡くなられたお父様がいつも座ってテレビを見ていた場所があるとしたら、そこのテーブルにひとつお花を飾ってあげるのも良いですね。

――仏花を飾ったり贈ったりするのに適したタイミングはありますか?

たとえば満中陰(※)のときであったら、2・3日前とかに飾る・贈るタイミングかなと思います。でもお花をもらったらみんな嬉しいと思うので、自分が故人を思い出したときとかに飾ってあげたり贈ってあげたりすればいいんちゃうかな、と私としては考えています。

※満中陰とは
主に西日本を中心に使われている言葉で、49日の忌明けのこと

【おすすめの花】 お花はその時期のお花を

――仏花として一般的なお花はなんでしょうか?

象徴的なお花としては「蓮華(れんげ)」、いわゆるハスのお花があります。しかし、ハスは年中あるものではなく手に入りにくいので、王道としては菊ですかね。
菊というと少し地味なイメージがあるかもしれませんが、今はぽんぽん菊・糸菊など、見た目も華やかで洋風に飾っても似合うものも流通しています。お花屋さんに行くと様々な種類の菊を出してくれるのではないでしょうか。

――菊以外だとどのようなお花がおすすめですか?

お花は生き物なので、生き生きしているときが一番綺麗です。ですから、その時期のお花が良いですね。

春は多色あるチューリップやスイートピーなどが華やかですし、夏はシャクナゲやヒマワリが色鮮やかでおすすめです。お盆の時にはやはりハスの花が良く、秋は菊。冬は寒ボタンが高貴ですし、水仙やアイリスも綺麗ですね。

とはいえ、お花の選び方に厳密なルールはありません。NGなお花、例えばトゲがあるお花や、シビトバナなど名前の良くないお花などを避けて、自分が贈ってあげたいと思うお花を選んであげることが大切です。

仏花に“NG”のお花の詳細は
こちらの記事でチェックを

仏花のルール・マナー Q&A

【豆知識】 少し複雑な「地方ごとのマナー」

――仏花には地方ごとに特色があるのでしょうか?

地域性はとても大きいと思います。私は生まれからずっと京都にいて、今はご縁あって大阪のお寺も見さしてもらっているんですけど、隣同士の京都と大阪でも結構違ったりしますね。

一番顕著な違いは、お花の種類です。最近は流通が良くなっているので年中いろいろなお花を使えますが、昔はその土地で自生しているお花を使っていたので、大きな違いが出たのでしょう。

例えばお盆のときは、京都はシキビを一種だけで供えることが多いですし、沖縄ではチャーギーという花をお供えしたりします。ほかにも「朝摘んできたお花が一番いい」とする地域もあります。なので、そういうところではお盆の当日にお花を用意したりします。

――地方のマナーを気にされる方は多いですか…?

ご年配の方が多い地域では、マナーやルールが重視されることもありますね。お花は何種類使わないといけない・お花の本数は偶数じゃなくて奇数じゃないといけない……などを気にされたりもします。
でもルールにはあまりとらわれず、想いをお花に託し、行動することが一番のご供養ではないでしょうか。気になる場合は、その地域のお花屋さんにご相談すると良いかと思いますよ。

花キューピットはお届け先の
地域にある花屋さんがアレンジします

地域の風習に合わせた
お花を贈る

【大切なこと】 仏花で大切なのは、故人を想うこと

――仏花を贈る際に最も大切なことは何だと思われますか?

ここ何年かでインターネットが急速に発達し、あらゆる情報が真偽問わず手に入るようになりました。昔であれば、どこかのお寺の檀家さんにならないと分からなかった仏事のマナーやルール、生け花の流派で門弟として習わないとわからなかったお花のマナーなども、インターネットで簡単にわかります。

だからこそ、たくさんの情報に縛られてしまっている人もきっと多いのではないかと思います。でも私は、華道家としても僧侶としても、亡くなった方を偲ぶための行為は、人が不快に思わない程度であればご自身が良いと思う形でするのが一番だと考えています。

――最後に、仏花の魅力とは何でしょうか?

「もうお会いすることができなかったり会話することが叶わない故人へ自分の想いをきっちりと伝えることができる」、その一点に尽きます。お花を飾ったり贈ったりして気持ちが伝わるなんて、とても美しいコミュニケーションですよね。

【まとめ】故人への愛を仏花に込めて

大切なあの人のご供養を、足を運んでできないときもある、こんな時代だからこそ。
お花をご自宅に飾ったり、故人のご家族に贈ったりしてみてはいかがでしょうか。
お花を通した故人との美しいコミュニケーションを、ぜひ体験してみてください。