ロリータ娘と、
普通な父と、薔薇と
みなさん、こんにちは。
私はロリータモデルと看護師をしている37歳です。
37歳と聞くと、結婚をして子供がいてもおかしくない年齢ですが、
私はまだ結婚もしておらず、2つの仕事を楽しんで、自由に生きています。
こんな肩書なので、私の父はアーティストやデザイナー、もしくは医療関係者だと思われがち。
でも実際のところ、父は、ごくごく一般的なサラリーマンでした。
ロリータファッションを始めたのも、看護師になったのも、父の影響ではありません。
逆に父の影響を受けてロリータファッションをしていたら、
それはそれで興味深いエピソードになったのですが……。
これは、いわゆる“普通じゃない人生を歩む私“から、
予期せぬ父親道を歩むことになった“普通の父”へ贈る、
感謝の手紙のような手記です。
ロリータブランドを正確に知っているお父さん
お父さん。
正直、お父さんと私は、“何でも話せる仲”ではありません。
私は365日、目立つファッションを着て、TVや雑誌に出て、結婚もまだ。
家族に心配をかけている自覚があるから、こちらが本音で話せないのでしょう。
お父さんもお父さんで、私のことを深くは聞きません。
私のロリータファッションに包まれた日常は、お父さんからしたら無縁の世界。
だから
「仕方がない。まぁ、父娘なんてそんなもんか」
と思っていました。
でも、ある日。
朝ごはんを食べていたら、お父さんが
「最近、いろんなブランドのデザインやモデルをしてるな。頑張れよ」
と突然言ってきました。
漫画なら、特大サイズの「!?!?!?!?」が頭上に浮かんだであろう、あの光景。
今でもはっきりと覚えています。
“お父さんがいつの間にか私の仕事をチェックしていた”
という驚きもあったけど、それにプラスして
“ロリータファッションブランドの名前はものすごい複雑なものが多いのに、
自分の父がそれを正式名称で覚えていた”
というのが衝撃で。
当時のロリータ娘は、状況理解に少々時間がかかりました。
(後でお母さんに聞いたのだけど、こっそり私のブログやSNSを毎日チェックしてくれているんだね。ありがとう……!)
そんな距離感で暮らすお父さんと私だから、
2人でじっくり何かを語り合うようなことはしてきませんでしたね。
でも、私たちはお互いを想い合いながら、人生を歩んできた親子だと思っています。
そのアカシが、節目、節目にお花を贈り合う、父娘の行事。
薔薇とお父さん
忘れられないのが、私が看護師国家試験に合格したときのこと。
お父さんが、お祝いに、薔薇の花束をプレゼントしてくれました。
そのときにお父さんがかけてくれた
「手に職があれば、自分のしたいコトもできるだろう。だから、自由に生きろ」
という言葉、今でも薔薇の花を見るたびに思い出します。
お父さんが駆け抜けた時代は、一つの仕事を一生懸命極めることが美学な時代でもあったはず。
そんなお父さんからの「自由に生きろ」という言葉に救われ、勇気づけられて、
私はモデルとナースの、二つの生き方を貫く覚悟ができました。
ちなみに看護師になって5年目には、私からお父さんに薔薇を贈りました。
外務省からカワイイ大使の依頼がきたタイミングで、私が勤めていた大学病院を辞めたときの出来事です。
お父さん、覚えているかな?
すごく照れ臭そうにしていたけど、絶対に嬉しい顔をしていたよね。
今更ながら告白すると、あれは、「沢山の肩書きがあっても良い」と自信をくれて、自由に職業選択をさせてくれたことへの感謝の気持ちを込めた薔薇でした。
薔薇を贈り合うなんて、恋人みたいで照れ臭いんだけどね。
「結婚しろ」と言わないお父さん
お父さんは私の生き方やファッションについて、本当に何も言いません。
「結婚してほしい」とか「孫の顔が見たい」とか。
きっとお父さんの周りの同年代のお友達は、お孫さんの話で盛り上がっているのでしょう。
そんな話題の中にいるお父さん(ロリータ娘あり)の姿を想像すると、
こんな私でも、正直、ちょっと申し訳なく思うときがあります。
普通に、適齢期で結婚をして。
普通に、街になじむファッションをして。
最近は、その「普通」が少しずつ形をなくしてきたけど、それでも私はやっぱりソコからはかけ離れた存在です。
そんな私が自由に生きてこられたのは、普通を求めない、普通のお父さんがいたから。
私の生き方に勇気と自信をくれる薔薇の花を、お父さんが贈ってくれたから。
薔薇を眺めて楽しいお話をしよう
私は今年の6月で38歳になります。
まだまだ自由奔放に好きなロリータファッションを着て生きていきたいです。
そんな私をいつも絶妙な距離から応援してくれるお父さん。
それなのに、私はここ数年、父の日に特に何も思い出を贈れていなかった気がします。
海外の仕事が忙しかったこともあって、できたとしても、食事をご馳走するくらい。
でも今年は、コロナ禍で海外の仕事も落ち着いているからこそ、きちんと「ありがとう」を伝えたい。
だから、久々に父娘のお花贈りをやろうと思います。
お父さんと私の絆のような存在の薔薇──
それを飾って、ゆっくり眺めながら、楽しいお話をしたいです。
お父さん。
ロリータ娘を、いつも寡黙に応援してくれて、ありがとう。
この気持ちを込めた薔薇の花を、今年の父の日に贈ります。
編:小嶋らんだ悠香
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